「あれ?言ってなかったっけ。私の二人三脚のペアの子。ほら、葵くんと飲み物買いに行ってたあの子だよ」
「あー。あの子。宗太郎君って言うんだ」
 ふと思いだす、葵くんの横にいた男子。
あの日優菜ちゃんとはなしていたのをちらっと見たけれど、同じ顔をして笑っていた。彼の爽やかな笑顔は、人を虜にしそうだった。
「あの二人、中学から一緒らしいよ。昔は宗太郎くんのほうが頭も良かったんだって」
 あの短時間で結構親睦を深めたようだ。そりゃあんなに笑顔が溢れていたわけだ。
「随分仲良くなったんだね」
「うん。宗太郎くんは結構馴染みやすかった」
 優菜ちゃんもそういうタイプだと思うけど。実際私にも優菜ちゃんから話しかけてきたわけで、あの機会がなければ今こうして仲良くしているかどうかはわからない。たぶん宗太郎くんも優菜ちゃんと同じで人知りをほとんどせず自分から話しかけれるようなタイプなのかもしれない。類は友を呼ぶという言葉があるように。そして優菜ちゃんは間も開けずに続けた。
「葵くん、人見知りすごいらしいよ」
「そうなの?なんだか意外なようなそうでもないような」
「うん。だから香織ちゃんラッキーガールだよ。中々自分から行かないから宗太郎くんもびっくりしたって言ってた」
「葵くんが?自分から行かない?」
 確かに人見知りで自分から行けないとか話しかけれないのはあるかもしれない。でも、葵くんは私をリードする側だ。自分から行けないというのはいくらなんでも辻褄が合ってないように思える。
「ほらあ。やっぱり香織ちゃんにしか見せてない所があるんだよ」
 私にしか、見せていないところ。葵くんが私にしか見せられない一面。本当にあるんだろうか。宗太郎くんが間違えてるだけなのか否か。
 つんつんと突かれていることさえ気にならない。

 優菜ちゃんの電車の時間に合わせて勉強会の幕をおろした。あれからは駄弁(だべ)りながら少しずつ宿題を勧めていった。今までしていなかった分は取り返したはず。やっぱり自分よりも頭のいい人に教えてもらいながらすると捗る。頭の良い人。私よりも、優菜ちゃんよりも…。
『葵くん今回のテスト一位だったんだって』
 いや、葵くんに教えてもらうのはなしだ。ツンツンしててなんだか怖い。怒られながら教えてもらうくらいなら優菜ちゃんでいい。いくら家が隣同士で学年一位でも、怖い人には教えてもらいたくない。
 …でも少し気になるのは、彼の点数。優菜ちゃんでさえほとんどの科目が70点を超えていた。つまるところ平均は70点以上である。切羽詰まっていて、優菜ちゃんと葵くんが僅差なのか、はたまたかなりの差をつけて葵くんが勝っているのか。少なからず二人の間には四人もの生徒がいる。故に切羽詰まっていることは考えづらい。