「あー。疲れた!」  
 私の向かいに座っている優菜ちゃんが声をあげ、ぱたんと後ろに倒れる。私の集中も途切れ、一つ背伸びを入れる。
「もう大分してるよ?私達頑張った」
「ホントだ。頑張った頑張った」
 ゆなちゃんは壁にかけてある時計を見た。確かに、1時間以上は集中していた。互いに苦手をカバーしながら、無駄な話なんてほとんどしていないと言っても過言ではない。
 夏休みが本格的にスタートした8月の頭。優菜ちゃんが宿題をしようと言うので、今日は私の部屋で宿題をしている。高校でできた友だちを家に入れるのは初めてなので、お母さんに話すと、大歓迎で、わざわざオレンジジュースとショートケーキを買ってきてくれた。そこまでしなくてもと引き止めたのだが、お母さんはいいのよと言い全く怯まなかった。
「こんなんじゃまたテストいい点取れないよ」
 今までのページを見返しても、全く頭に入っていないことを知って後悔するべきか良かったと言うべきか。ため息を吐いた私にゆなちゃんは、どきりとすることを言った。
「葵くんに教えてもらえば?」
「な、なんで?」
 なんで葵くんの名前が出てくるのか。私の脳裏に一番最初によぎったのは、家が隣同士であることがバレたのかもしれないということ。隣同士であれば行き来は容易だから。でもバレるような言行動をした覚えはない。
「宗太郎くんに聞いたけどね、葵くん今回のテスト一位だったんだって」
「ええ?!」
 私は安心よりも驚きのほうが勝った。
クラスの人数は26人。私はそのうち11位だった。優菜ちゃんは6位と高順位。私も低かったわけではないのだが、周りの人が高すぎてどうも劣って見える。
「葵くん、頭いいんだ」 
「そう。香織ちゃんペア組んでたじゃない?仲良さそうだったしちょうどいいかなって」
「別に仲いいわけじゃないよ」
「もう頑固なんだから。わかんないよ?向こうは狙ってたりして」
「そ、それは絶対にない!あんなにツンツンしてるんだから」
 恥ずかしくなって思わずそう声を上げる。
「じゃあなんでペアに誘われたの?あんなに進んでたのは?飲み物まで。ほらほら、もう恋愛要素しかない」
 勝手に妄想を始めるのは止してほしい。それらのことに対しても葵くんは、私以外話せる女子がいないと言っていた。理にかなうものだったのでそれしか信じていない。あんなにツンツンしてるのに…。
「宗太郎くんは3位だったんだって〜」 
「まって。宗太郎くんって誰?」