「えー、さっきも紹介ありましたが、今日から一年、えーこのクラスを担任します(あずま)です。よろしく」
 少し関西弁が混じった風のおじさん先生だ。顔くらいまで手を上げて朗らかに笑った。
「まあ、まずは入学おめでとございます。先生が高校の頃も最初はこんな静かだったんやけどな、1ヶ月2ヶ月経てば結構なれてくるもんなんよな。だからまぁ焦らずに、マイペースでいきまっしょ」
 外れの先生じゃなさそうで安心した。むしろあたりの先生かもしれない。今のちょっとした言葉で若干口角を緩ませることができた。前のこと、隣の席の子も肩が一瞬上下したのが見えた。先生も少し笑っている。
「とはいっても、時間があんましないから配りものをします」
 教卓でトントンとプリントを整えてから、先生は一列ごとにプリントを配っていった。
 自分の手元に来たプリントを後ろの人に渡そうとした。でもなぜか、プリントを、取ろうという反応がない。おかしいと思って後ろを見てみた。
 ね、寝てる?こんな初日に寝ることなんてあるんだ。流石にこれ、見つかったらまずいよね。いくら入学日とはいえ、これは怒られるんじゃないかな。自ら寝ているというより、寝落ちしてしまっているようだ。顔がこくんこくんと動いている。
「あ、あの」
「え、あ、わたし寝てた?」
 わたしはコクリとうなずいた。まだ浅い眠りだったらしく、小さく声をかけたらすぐに起きてくれた。
「ホント?ありがとね起こしてくれて」
 手を合わせて、周りに聞こえないくらいの声量で彼女は言った。わたしは会釈をしてプリントを渡し、直ぐに前を向いた。
「じゃあ、もう時間になるんで、号令して終わりましょう。じゃあ今日の号令は一番の人にしてもらうか。青山。よろしく」
「気をつけ、礼」
「ありがとうございました」
 遠慮しかしていない細くて小さな声が全員から聞こえた。
「ん、それじゃ、帰ってもいいぞ」