相思相愛

 もう一回肩を組む。そして足を出す。葵くんの右腕が肩から抜け落ちたと確認するまで時間は要さなかった。今度は葵くんが転けた。
「痛」
「大丈夫?」
 さっきの私もこんな感じだったのかと思うと恥ずかしくなってきた。ヘッドスライディングをするみたいに全身で地面に接している。傍観者、体験者として見てるけれど随分痛そう。でも何事もなかったかのようにそのまま座った。体操服についた砂をはらっている。でも表面的なものしか取れてないようで、砂の色が体操服に少しついている。
「早速コケてるペアは初めてやな」
 恐らく私達のことだろう。先生が面白げに言った。返答に困ったし、はっきり聞こえなかったので聞こえていないふりをした。
「どうしてうまくいかないんだよ」
「足出すの、先に決めてから走ろうよ」
 私もしゃがんで目線を合わす。まるで幼稚園児と話すみたいに。葵くんがなんでこんなことで悩んでいるのだろうと不思議なくらいだ。最初に私も言えばよかったのだろうけれど、ちょっと怖かったのと、流石に葵くんもこのくらい知ってるものだと思って言わなかった。
「確かにな。その手があったか」
 どうやら思いついてなかったみたいだ。
「二人三脚初めて?」
「まあな。小中学校ではなかった」
 伸ばした足を曲げて、そこに膝をおいた。それによって私の足も強制的に曲がってしまう。
 確かに、二人三脚をしたことがなかったらこの方法を思いつかないのも納得できる。
「私先に足出すよ」
「俺は右足を出せばいいのか」
「そうそう」
 葵くんが左手をぱっと見上げて私に首をかしげた私は言葉とともに2回頷く。そして息を合わせて立ち上がる。
「行くぞ」
「せーの」
 合わせた息が、声が、足が、何もかも一緒になった気がした。それはまるでさくらんぼのように2つで1つが成り立つもののよう。
 さっきまでの2回が全て嘘のようだ。周りのペアが手こずっている中、徒競走でフライングしたみたいにぐんぐん差が開いて行く。掛け声なんてしてないし、私なんて走ることで精一杯。一人で走っているみたいに何も感じない。でも隣に葵くんはいる。
「おー藤本と中野すごいな!」
 先生の前を通りかかり、声が前から後ろへと流れていく。
「止まるぞ」
「え、あ、ちょ!」
 また葵くんは私の返事も待たずに事を実行した。今回は運良く転ばなかったからよかったものの、どれだけ痛かっただろう。想像するだけでも怖くなる。