相思相愛

 でも葵くんからその話が出てくると思ってなくて私は別の人が喋ったのではないかと耳を疑っている。
「わかる!なんていうか色んな感情が詰まっててそれでストーリーも面白くて、最高だよね」
 実はこの前買った本は2巻で、今もなお連載も続けているストーリーだ。この小説は高校生の友情を描いた物語で主人公達の葛藤や願い、本当の思いなどが話が進むに連れてわかっていく。お互いの気持ちがわかったときや言えなかった本当の気持ちを言うシーンは感動必須。今の私と同級生くらいの子たちに焦点を当てたストーリーになっている。1巻を読んだあと続きがあることを知り、他の本を買う予定だったのをその本にまわしたくらいだ。私は今そのくらいこの本にはまっている。
「そうだな」
 葵くんから話し始めたのに。そっけない返事が帰ってきて残念。
「…貸して」
「ん?なんか言った?」
 突然立ち止まった葵くんは顔の少しをこちらに向けて何かを言った。
「2巻、今度貸して。読みたい」
 照れてるのかな。頬が少し赤く見えた私は自然にそう思った。本を貸し借りしたことなんて今までほとんどなくて、あったとしても同性の友達だった。異性の人と貸し借りするなんて初めて。数少ないものだったら、中学校のとき隣の席の男子にノートを見せてと頼まれたことがあるくらい。
「いいよ!」
 だから私は嬉しくてそれがそのまま表情として出てきた。笑みを見せると、さっきより顔が見えて、照れてることがわかった。照れるようなことでもないとは思うけれど、そんなこと気にならないくらい私はハイになっている。
「そんな張り切らなくても」
「わたし、そんな張り切った顔してた?」
「うん」
 冷静になった葵くんは本人でさえ気づかなかったことを言ってきた。わたし、張り切ってる?心が読まれてるみたい。葵くんは感情に答え合わせをしてきたあと、またゆっくりと歩き始めた。
 
 宵闇の空は、星たちが隠れる場所もなく、文字通り黒の中の白は目立っている。そんなとき、窓ガラスがこんと音を立てた。最初はカラスかと思った。暗闇のカラスは見えにくいのでそのせいかと考えたけど、動く影が見えず私は音の正体を確かめるべく窓を開けた。 
 なにこれ。暗くてよく見えないけれどなにかの破片だ。多分木だと思う。そしてもう一つ飛んできて、私の足元に着弾した。
飛んできた方向は隣。
「葵、くん?」
 覗き込むようにして、もし何もいなかったらどうしようという恐怖と葛藤しながら覗き込んだ。
「当たった?それならごめん」
「どうしたの?」
 ベランダにもたれかかる葵くんの右手には一つの欠片が親指と人差指の間に挟まれている。
「いや、本読みたいなって。1巻もう読み終わったから」