「お前は」
葵くんの目線が私の本に移った。私は自分の本に目線を移し、ブックカバーを外す。そのまま本を渡すと葵くんは驚いたように、また呆れたように自分の本のブックカバーをはずした。私も彼が持っている本を見て思わず二度見をした。
「なんで同じなんだよ」
頬に手をつくのが頬杖なら、おでこに手をつくのはなんと呼ぶのだろう。そんな体制で2つの本の表紙を見る葵くん。そこまで残念そうにされると傷つくんだけれど、そんなに嫌かな。入学して初めて話したときも、葵くんは私に何枚もの壁を貼り続けているような気がした。嫌っているのかもと考えたけれど、それならば一人で黙って帰るはずだ。だったら何故そこまで嫌がるのだろう。
「すごい、偶然」
偶然じゃん!だなんて素直な感想言えるわけもなく、私も空気を読んで葵くんに合わせる。どんな顔が正解かも分からずにあいも変わらず作るのが苦手な笑顔でなんとか乗り切ろうとする。苦手ならそもそも作らなければいいだなんて自分でも思っているけれど、思い通りに行けば人生の失敗はかなり減る。思い通りに行ってないからつらいのが人生なのでは無かろうか。
「どういうことだよ」
「どういうことって?」
「なんで同じなんだってことだよ」
そんなこと私に聞かれても困るんだけど。怒っているようだけれど周りの迷惑も考えてるらしく、声量は小さめ。その分怒りが発散できてなさそうに見える。
葵くんは左手に持っている彼の本を膝の上に数回叩きつけた。細かなところに慈悲と優しさを感じられてなんだか嬉しい。いや、今はそれどころじゃない。なんて理不尽な質問なんだと今更になって気づく。
「し、知らないよそんなの。確かに私のほうが遅く買ってるかもしれないけど、葵くんの本覗き見る時なんてないはずだよ」
「確かに、まあ言われてみれば」
納得してくれたのか、腕を組んでコクリコクリとうなずいてくれた。多分ほんとにたまたまなんだろうな。好きな本がかぶることくらいあるよね。
「じゃあほんとにたまたまってことでいいんだな?」
納得したかに思われたけどギロリと鋭い目が私を刺してきた。
「うん」
それ以外、言えることがない。最善の答えだったと私は思っている。電車はこうしている間にも進んで、もう少しでわたしたちが降りる駅につく。見慣れた景色がお帰りなさいとでも言っているように温かい。
「面白いよな、その本」
改札を抜けるまでの道はとても混んでいる。電車に乗り換える人、電車を降りる人、電車に今から乗る人の3パターンの人がいる。優菜ちゃんとの話にもあったけれど
、ここの駅は市内の中心の駅とされていて、駅内にはショッピングモールもある。近くにはお城もあって夜は居酒屋などでとても賑わっている。この時間帯の人だかりは朝ほどでもない。けれど小さい声は足音でかき消されるほど音がうるさくなっている。幸いにも近くにいたから、私の耳は葵くんの声をキャッチした。
葵くんの目線が私の本に移った。私は自分の本に目線を移し、ブックカバーを外す。そのまま本を渡すと葵くんは驚いたように、また呆れたように自分の本のブックカバーをはずした。私も彼が持っている本を見て思わず二度見をした。
「なんで同じなんだよ」
頬に手をつくのが頬杖なら、おでこに手をつくのはなんと呼ぶのだろう。そんな体制で2つの本の表紙を見る葵くん。そこまで残念そうにされると傷つくんだけれど、そんなに嫌かな。入学して初めて話したときも、葵くんは私に何枚もの壁を貼り続けているような気がした。嫌っているのかもと考えたけれど、それならば一人で黙って帰るはずだ。だったら何故そこまで嫌がるのだろう。
「すごい、偶然」
偶然じゃん!だなんて素直な感想言えるわけもなく、私も空気を読んで葵くんに合わせる。どんな顔が正解かも分からずにあいも変わらず作るのが苦手な笑顔でなんとか乗り切ろうとする。苦手ならそもそも作らなければいいだなんて自分でも思っているけれど、思い通りに行けば人生の失敗はかなり減る。思い通りに行ってないからつらいのが人生なのでは無かろうか。
「どういうことだよ」
「どういうことって?」
「なんで同じなんだってことだよ」
そんなこと私に聞かれても困るんだけど。怒っているようだけれど周りの迷惑も考えてるらしく、声量は小さめ。その分怒りが発散できてなさそうに見える。
葵くんは左手に持っている彼の本を膝の上に数回叩きつけた。細かなところに慈悲と優しさを感じられてなんだか嬉しい。いや、今はそれどころじゃない。なんて理不尽な質問なんだと今更になって気づく。
「し、知らないよそんなの。確かに私のほうが遅く買ってるかもしれないけど、葵くんの本覗き見る時なんてないはずだよ」
「確かに、まあ言われてみれば」
納得してくれたのか、腕を組んでコクリコクリとうなずいてくれた。多分ほんとにたまたまなんだろうな。好きな本がかぶることくらいあるよね。
「じゃあほんとにたまたまってことでいいんだな?」
納得したかに思われたけどギロリと鋭い目が私を刺してきた。
「うん」
それ以外、言えることがない。最善の答えだったと私は思っている。電車はこうしている間にも進んで、もう少しでわたしたちが降りる駅につく。見慣れた景色がお帰りなさいとでも言っているように温かい。
「面白いよな、その本」
改札を抜けるまでの道はとても混んでいる。電車に乗り換える人、電車を降りる人、電車に今から乗る人の3パターンの人がいる。優菜ちゃんとの話にもあったけれど
、ここの駅は市内の中心の駅とされていて、駅内にはショッピングモールもある。近くにはお城もあって夜は居酒屋などでとても賑わっている。この時間帯の人だかりは朝ほどでもない。けれど小さい声は足音でかき消されるほど音がうるさくなっている。幸いにも近くにいたから、私の耳は葵くんの声をキャッチした。


