桜が咲いて、暖かい風が吹き抜ける今日、私は高校生になる。家族に「いってきます」と告げて、受験のとき以来の道を通る。わたしを照らす太陽の方向に向かって色々な感情が入り混じった足を運んでいく。左右には老若男女が住んでいる家々が軒並み並んでいて、世間話をしている人たちもいる。
 受験から1か月も経ってないというのに、もうあんな昔のことのように感じてしまう。あの時よりも違うものより同じもののほうが多い。思い出は、時間じゃなくてそこで何をしたかが大事なんだと今思った。 
 学校の近くになると同じ制服に袖を通した人が増えてきた。多分なかには在校生の人もいるのだろう。新入生とはまるで表情が違う。正門には「入学おめでとう」と書いてある看板が立ててある。その横に案内係の人がいる。その人は恐らくこの高校の先生。見慣れない校舎を見て感嘆しながら歩いていると一際目立つ人混みがあった。他の生徒もそこに向かっていたので、私もそこに向かうことにした。どうやらそこはクラス名簿が貼られているらしい。それに準じて入学式の席が決まるらしい。
 わたしは1組だった。名簿をさほど辿らずに済んだのは楽で良かった。そのまま体育館に入って係の人に案内された場所に座る。周りは生徒が少なくどちらかというと保護者のほうが目立っている。私の前の列にも3人男の子が座っている。どうやら知り合いじゃないようで、話す素振りを見せない。5分もしないうちに席は埋まり尽くされていった。式が始まって、聞き慣れない校歌、校長先生の話、担任紹介、新入生の挨拶などが終わり、あとは教室でのホームルームだけとなった。
 教室までは担任の先生が誘導してくれた。中学校と違って校舎が広く入り組んでいる。オープンスクールのときは友達と輝かしい眼差しで歩いてたっけ。そんな友達は私よりももっと頭のいい学校に行ってしまったけれど。多分中学の時の人も何人かこの高校に入学しているのだろうけれど、多分その人たちはわたしと仲良くない人ばかりなので、実質一人ぼっちといっていいかもしれない。既に今、わたしは一人だ。私だけじゃないというのが命綱なだけ。別にそこまで人見知りをするタイプではないのだけれど、自分からグイグイと行くタイプでもない。基本待つ方だ。だから最初にツッコんでいって後々失速するような失敗はしたことがない。
 教室は緊張感あふれる空間となっていて、そんなわたしたちを見てか、心なしか先生も緊張しているように見える。