相思相愛

「あーあ、そろそろご飯作らなきゃだわ。またご飯行きましょうね!」
「そうね。私もだわ。またね!」
 若々しく手を振って葵くんのお母さんは帰っていった。それを見届けるとなんだか妙に力が抜けてホッとした。
「良かったじゃない香織」
「え?なにが?」
「葵くんいて。前みたいに遊べるじゃない」
 お母さんがキッチンに続く廊下を歩いていった。
「あ、あのときはまだ幼稚園児だったから。今は流石にちょっと」
 私は頬を指でかきながら考える。確かにすごいご近所さんで幼稚園が一緒だった。前みたいにあそべたら楽しいだろうなとは思うけど、私には一つ気がかりなことがあった。
 その夜私はベッドに潜ると、壁越しに見えもしないはずの彼の家を見た。
「なんで、否定してきたんだろ」
 ありの物音みたいな声で私は口を動かす。
 葵くんは私との昔のことを否定した。お母さん同士が覚えていて本人が覚えてないなんておかしいし、そもそもお母さんから何か聞いているはずだ。葵くんが否定したところで、今の状況にメリットはない。証拠も幾つか上がっているのに、なんで同じ幼稚園だったことを否定してきたのだろう。