終礼を終えると、すぐに教室を出た。

 今いる普通教室棟と、理科室がある技術教室棟は渡り廊下で繋がっている。放課後技術教室棟に足を踏み入れることはめったにない。

 渡り廊下は風の通りが良いのか、柔らかな風が通っていて気持ちが良い。

 なんだか新鮮な気持ち。

 渡り廊下を抜け、技術教室棟に足を踏み入れると同時に何か聞こえてきた。

「~~~♪」

 早速歌声?

 学校の噂にやけに詳しい友達のいち子によると、かなり歌声が良すぎてヤバいらしく。

 早く聞きたくて自然と足早になる。
 吸い込まれていく感じ。

 少しずつその歌声は大きく。

 まだ教室までは距離があるのに、すでに心の奥底まで癒されるような、優しくて繊細な歌声を感じる。

 夏に聞きたい曲ランキングで常に上位のノリノリな歌をバラードバージョンにアレンジした歌。

 歌声を聴いていると、なんだか心が整えられていく感じがする。

 こ、これはもしかして?

 結構前にテレビで見た『えふぶんのいちゆらぎ』というものでは?

 某歌謡曲の女王さんも出せるという歌声。聴くと自律神経までもが整えられるとか整えられないとか。

 私は左手を胸に当て、目を閉じてみた。

 頭の中で映像を勝手に作り上げてゆく、美しいその歌声。

 ざぶ~ん。ざぶ~ん……。

 青い空と海。
 横には森もある。

 小鳥の鳴き声も聞こえて、潮の香りも漂ってくる。

 癒されすぎて。このままではなんだか夢の世界に行ってしまいそう。

 目をパチッと開いた。
 現実に戻る。

 現実に戻り、美しい歌声が聞こえて来る理科室の前に着いた。