「ちょ……待って!」

 東条先輩が元美術室の中に入ろうとした時、蓮見くんが言った。

「なんだ直月、怖いのか?」

 ちょっと小馬鹿にしたように東条先輩が言うと、蓮見くんはムッとした。

「こ、怖くない……」

 あぁ、明らかに怖がっている。
 でもそうやって隠そうとするお姿にキュンとした。

「じゃあ、行くぞ!」

 東条先輩が蓮見くんの手を引っ張って中に入っていった。

「なんかワクワクするこれ」と言いながら高瀬くんもついていき「入るんですか……心配」と呟きながら先生も中に入っていった。

 どうしよう、怖いけど私も!

 勇気をだして元美術室の中に足を踏み入れた。

 長いテーブルや椅子は後ろに全てまとめられていて、中央辺りには何もなく、作業が出来そうな空間になっている。

「これになんかありそうな気がする」

 高瀬くんが呟く。

 高瀬くんは教室の前方、窓側にあるすごく大きな絵の前にいた。不自然な感じで白い布を被せてあり、壁に立てかけてあった。その絵は下半分には布が被さってなく丸見え状態。

 絵の内容は、赤い服を着た女の人の上半身っぽい。

 他のところはホコリだらけなのに、その布だけひとつもホコリがない。
 つまり、最近誰かが被せた布かもしれないということだ。

「どれどれ」

 迷いもなくその布を東条先輩は外した。
 右頬に右手を当てて左半分の空白部分を見つめている女の人の絵があらわれた。