「いくぞ」

 東条先輩が女の子に声をかけ、ふたりは手を繋ぎ歩き出した。
 あっ、ふたりが行っちゃう!

「あの! 東条先輩にお話があるのですが」

 私は勇気を出して、お願いしてみることにした。

「俺に?」

「はい、実は、映画に出て欲しくて……」

 単刀直入に言った。
 それから事情を説明したら、彼は首を振りながら言った。

「そういうの、面倒くさいから断るわ」

 予想していた通りの返事。

「えっ? 映画って、お兄ちゃん画面の中で動くの? お兄ちゃん、映画に出てるの見たい! いつもかっこいいけれど、きっともっとかっこいくなるね!」

 ガッカリしていると、小さな女の子がそう言った。

 東条先輩の瞳がキラリとして、何か言いたそうにこっちを見た。明らかに今の女の子の発言に影響を受けた様子。

「やって、見ませんか?」

 ひと押ししたらOKしてくれそうな予感がしたから、もう一度訊いてみた。
 
「しかたねーな」
 しぶしぶ彼はそう言ってくれた。

 やった!

 しかも今、お兄ちゃんって呼ばれていたけれど、この子、東条先輩の妹なんだ。

 よく見てみると、目とかそっくりでとても可愛かった。ちょっと一緒に映画、出て欲しい、かな?