ぷっくりと膨らんで、今にも零れてしまいそうなくらい涙を溜め、キッと口を結んだ彼女は、僕の手首をがっちり掴み、ほっそりとした色白の人差し指で、手のひらに何かを書き始めた。
 僕はその指文字を読み間違えないよう、手のひらに意識を集中させる。

 は、な、れ、な、い、で、そ、ば、に、い、て。

 彼女は怒っている。だから口を結んでいる。けれど伝えずにはいられない。そんな葛藤ゆえの指文字の、その指先が触れた場所からじんわりと、彼女の心が広がっていくようだった。幸せが、広がっていくようだった。

 だから僕は、僕の軽率な行動を謝罪して、好きだと伝えて、彼女が大きく頷くのを確認すると、幸せが逃げてしまわないように、彼女の指ごと、ぎゅうっと手を握った。

 彼女はまだ口を結んでいたけれど、僕の指の間から飛び出た人差し指が、手の甲をかりかり撫でたから。彼女の心を察して、僕も大きく頷いた。




(了)