(不幸せな未来)


 夜、電話をかけてきた彼女に冷たい言葉を吐いたのは、仕事で嫌なことがあったせいだ。

 こちらの事情なんて知らない彼女は、暢気な声で「今何してたー?」なんて言うから、腹が立ってしまった。何してたもなにも、さっきくたくたで帰ったばかりで、何もしていない。辛うじてネクタイを外し、空っぽの冷蔵庫を覗いてがっかりしていたところだ。

 それなのに「声が聞きたかった」と我が儘を言う彼女に、嫌味のひとつでも言ってやらないと、こちらの気が済まない。すぐに電話をかけ直したが、応答はなかった。

 どうしようもなく苛ついて、しばらく彼女と距離を置こうと思った。


 それが間違いだったと気付いたのは、それから一ヶ月後のこと。

 がらんとした、彼女の住まいだったはずの部屋の真ん中で、スマートフォンから流れる「おかけになった電話番号は現在使われておりません」という機械的な音声を聞いたときだった。




(了)