“仕事を抜ける迷惑を考えろ。おれはおまえを食わせてやってんだ”

退院した私を迎えに来た章が開口一番、迷惑そうに言い放った言葉がそれ。

あのとき…私がお腹を打ち付け流産した時に救急車を呼んでくれたのも、付き添ってくれたのも浮気相手の女の子だった。

“近所の体裁が悪いから救急車なぞ呼ぶな”
という章に
“こんなに血が流れているのに、なにを言ってるのよ!この悪魔!!”

金切り声で叫んだ女は、後に唯一無二の親友となる雅美(まさみ)だった。

章が既婚者と知らなかった彼女は、救急車の中でごめんなさい!許して!!と涙を流してずっと付き添ってくれて。入院した時もあれやこれやを世話してくれた。

そんな彼女も……数年後結婚して北海道に行ってしまい、今ではたまに手紙が来るくらいだ。


その流産がきっかけか、私は二度と身籠ることがなかった。義両親からは冷たい目で見られ、素っ気なくすげなくされ続けた。
それでも、“長男の嫁だから”という理由で、結婚後数年で同居を余儀なくされ、舅と姑にも仕える日々。章が浮気しても“男の甲斐性だ”と、言下に子どもがいない私に当てこすり。

そんな義両親も十年前から相次いで寝たきりとなり、数年私が在宅介護をして2人を看取った。
実の子の章や義妹は全く手助けせず、感謝も無かった。