「そうそう! アル、私ね。婚約破棄されちゃったの!」
「え!? それって……大丈夫なのかい? 辛い思いをしたんじゃないのか?」

 アルは驚きの声をあげると、すぐに私を心配する様に眉を潜ませてジッと見つめてきた。

「え? 全っ然! むしろこんな晴れやかな気分久しぶりだわ! だって私はもう自由なの! 誰を好きになってもいいんだもの!」
「そ……そうかい。君が傷付いてないのなら良かった」

 アルは安心した様に笑った。だけど暫くして、少し寂しそうに表情を曇らせた。

「君ならすぐに、相応しい相手が見つかるよ。君の事を大事にしてくれる人が」
「さあ、それはどうかしら? こんなゴリラ女を相手にしてくれる人が現れるかしら? 『君の相手は野生のゴリラぐらいにしか務まらない』って言われちゃったのよ?」
「なに?  その婚約者は君にそんな事を言ったのか? それは許せないな。別れて正解だ」

 アルは瞳に怒りを滲ませて、悔しそうに唇を噛み締めている。
 あら? 今の、笑うところだったんだけど。
 やっぱり私のギャグセンスってダメね。スーランに弟子入りしてみようかしら。

「そんな見た目だけで判断するような奴は駄目だ。ちゃんと君の優しさを分かってくれる人でないと、僕も安心出来ないな」

 私の本当の姿を知らない彼は、私の容姿の醜さに耐え切れなくなった男が、一方的に婚約破棄を突き付けてきたと思っているみたい。
 でも不思議ね。違う意味で発せられた言葉だけど、その中身は間違っていない。