翌日、私は想い人の彼に会う為、家の近くにある森へとやってきた。
 森の中央を分断する様に流れる大きな川の側で、水桶に水を汲む彼の姿を発見した。
 近付いていくと、私の気配に気付いた彼がこちらを振り返った。

「おはよう、カリナ。今日も来てくれたんだね」

 短髪の焦げ茶色の髪からは水が滴り落ちている。
 目尻を下げて爽やかに笑う彼の姿は、男らしいというよりもどちらかというと小動物の様な……いわゆる草食系男子と呼ばれる部類に入るのだろう。なんていうか、言うと怒られるかもしれないけれど、可愛いのよね。童顔だし。

「おはよう、アル。また一人で水を汲みに来てたの? 私がやるっていつも言ってるじゃない」

 私はアルが持っている水桶を掴み、引き寄せようとしたけど、アルは手を放してくれない。

「大丈夫だよ。この森の事は熟知しているから。今更コケたりなんかしないさ」
「分からないじゃない。もしかしたら木が倒れてたり、道がぬかるんでるかもしれないでしょ?」
「問題ないよ。何年ここに一人で暮らしてきたと思ってるんだい? 君の力がいくら強いからと言っても、自分で出来る事を任せる訳にはいかないよ。それに、最近は僕も君を見習って体を鍛えているんだ」

 そう言うと、アルは水桶を片手に持ち換え、もう片方の腕を上げてグッと力を入れてみせた。
 確かに、出会った頃はヒョロヒョロとして細かった腕も、ここ数ヶ月で少し太くなり、力こぶが膨れ上がる程になった。

「本当、凄いわアル! でも、私に比べたらまだまだひよっこね」
「それは残念。もっと鍛えないといけないな。じゃあ尚更、これは僕が持っていないとね」

 まあ、上手いこと話をまとめたわね。
 私が仕方なく水桶から手を放すと、アルは満足そうに笑った。