「カリナ。何か反論があれば聞いてやってもいい。だが私の心はもうスーランに――」
「あ、いえ。何もないです。婚約破棄を受け入れます」

 何か喋ろうとするロバート殿下の言葉を遮る様に、私は何の迷いも無く、この婚約破棄を受け入れた。
 すぐに踵を返し、軽やかな足取りで会場の出口へと歩き出す。

 ロバート殿下は、王位継承権を持つ正式な王太子。
 それなのに、事もあろうことか平民の私に一目惚れしてしまった。
 そのせいで、私は半ば強引に婚約者にされてしまったのだけど、代わりに私の父は男爵の爵位を授かることが出来た。
 今思えば、平民を婚約者にするわけにはいかない、王室側の根回しだったみたいだけど、育ててくれた親への恩返しが出来たのは願ってもない事だった。

 ただ1つだけ、どうしても我慢できない事があった。

 ロバート殿下はいずれ国王になる。つまり、私も王妃にならなければいけないという事。
 それだけは絶対に嫌。王妃教育なんて、考えただけで恐ろしくて吐き気がしてくる。だって貴族の作法なんて全く知らないんだもの。
 だから、スーランがロバート殿下に取り入ろうとしているのを見て、密かに応援していたのよね。

 ふふっ……。本当、期待通りの動きをしてくれたわ。やっぱり彼女って最高ね。
 ああ、どうしよう。嬉しすぎてスキップしたい。背中に羽が生えたかの様に体も軽いわ。

「ちょ……ちょっと待て!」

 会場の外まで、あと少しだったのに。
 背後から切羽詰まった様な声で引き止められて、せっかくの良い気分が台無し。
 溜息と共に仕方なく振り返ると、ロバート殿下が焦った様子で追いかけてきていた。

「そ、そんなあっさりと出ていかれてはこちらの立場的にも困る! もう少し悔しがったり怒ったりとかしてもらわないと……俺の顔が立たないだろうが!」
「は?」

 何を言っているの。この人は。