彼は笑っているけど、講義のあとに女子大生に囲まれることはしょっちゅうだし、あからさまに色目を遣ってくる女性教員がいることも知っている。若くして准教授になったエリートで、しかも顔もいいときたら、まわりがほっとくわけがない。彼はとぼけているのだろうか?

「薫は鈍感だからなぁ」

「それ純くんに言われたくない」

「ふぅん」 

 私は少しムッとした。

「っ!?」

 彼は私の首筋に吸いつくようなキスをした。

 鏡を見るとキスされたところが赤くなっていた。

「これ…」

「薫は僕のものってこと」

 後ろから耳元で囁かれ、ゾクゾクと痺れにも似た感覚が背中を伝う。

「顔真っ赤。かわいい」

 彼は鏡越しに怪しげな笑みを浮かべている。鏡に映る私の顔は紅潮して今にも火を噴きそうだ。

「もう、からかわないでよ!」

「はいはい。ああ、Tシャツを取りに来たんだった」

 彼は私を軽くあしらい、脱衣所に置きっぱなしにしていたらしい着替えのTシャツを着て、何事もなかったようにリビングに戻っていった。