ルームサービスのような豪華な昼食を前にして、私の中に沸き起こるのは食欲ではなくため息だ。

 朝井様にこのような形での礼は受け取れないと伝えたいが、なかなか会えない。

 ナースステーションに行って『心臓外科医の朝井先生はいらっしゃいますか?』と聞いただけで、白い目で見られ、あっけなく断られた。

『どのような用件ですか?』

 なんの用かはっきりしないと教えられないと言うのだ。

 答えられない私を看護師は睨んだ。

『ときどきそういう患者さんがいて、困るんですよね』

 イケメン心臓外科医の朝井様は患者にも人気なんだろう。

 しつこく聞いては私も不審者だと疑われるし、かといって本当のことは言えない。手紙にも内密にとあったのだから。

「どうしよう。困ったなぁ」

 ため息をついたところで、扉がノックされた。

 箸を止めて「はい」と返事をすると。

「姉さん?」

 目を丸くした弟の優斗が顔を出した。

「どうしたんだよ、この部屋。すごいな」