あの海へ戻りましょう。
私はソワソワしている一太に気がついて言いました。
「一太、御飯の前に、少しだけ海入ろうか」
「うん、ヤッター!」
一太は満面の笑みで叫ぶと、浮き輪を持って走り出してしまいました。
私とお母さんがビックリしていると、隣のカップルの女の人が声をかけて来ました。
「あっ、私が見て来ますから、どうぞ準備なさって下さい」
と言って、私にウインクすると一太を追いかけて行きました。
一太を取られては大変だと思った私も、すぐ後に続いて追いかけました。
お父さんとお母さんは、カップルの荷物とか彼氏を見て安全な人達だろうと判断して、成り行きを見守る事にしました。

私と一太とお姉さんはすぐに仲良くなって、カニを探したり、砂のお城を作ったり、水をかけあったりして楽しく遊びました。
「そろそろ御飯にしない?お姉ちゃんもう、お腹ペコペコ」
お姉さんが言いました。
「一太もペコペコ」
私達3人は陣地に戻る事にしました。
お父さんとお母さんは、お姉ちゃんの彼氏に飲み物を貰ったりして仲良くなっていました。
「恵美、お弁当分けて頂いたよ!」
「わぁー、凄ーい、美味しそう、ありがとうございます」
「どういたしまして、子供達と遊んで頂いてありがとうございます」
「いいえ、私一人っ子なんで、こういうの憧れてたんですよ」
「そうでしたか」

海で始めて出逢った人達同士の、楽しい食事がありました。
私は、なんとなくお姉ちゃんの隣りに陣取る事に成功して、話しかけました。
「あのさ、お姉ちゃん」
「ん、何?」
「お姉ちゃん達はカップル?」
「そおだよ、コイツは彼氏」
「結婚するの?」
「うん、多分ね」
「愛してるの?」
「私は愛してるけど、アイツはどうかな? 聞いてみようか?」
私はドキドキしながら、
「うん」と言いました。
「おい! 敬司さ、あんたアタシの事愛してる?」
彼氏は飲んでいたものを吹き出してしまいました。
「何だって?」
「だからぁ、あんたがアタシの事愛してるかどうか、一菜が知りたいんだって」
「まぁ、そりゃもちろん愛してるよ」
彼氏はとても恥ずかしそうに答えました。
「だってさ、一菜」
お姉ちゃんはそう言うと、とびきりの笑顔で私の頭を撫でてくれました。
これは後で聞いた話ですが、お姉ちゃんはこの時、彼氏と結婚する事を決意したそうです。