「白亜とは、貝殻などから採れる炭酸カルシウムのことです。白亜が広く分布した時代なので──つまり『白亜紀』」

「ほぇ~」

 説明を聞いている内に飲み干したワタシは、彼の言葉の終わりと同時に感嘆の声を上げた。

「でもどうしてご両親は白亜ってつけたの?」

「さあ。『名は(たい)を表す』と申しますからね。まさに『名』の『黒』い僕に、少しでも「清廉潔『白』」な部分を与えてあげたかったのかも知れませんね?」

「ほぇぇ……」

 お次に飛び出した吐息は、『感嘆』と言うより『脅威』だった。

 改めて、白地(しろじ)の紙に書かれた黒い文字を見下ろす。

 不思議な名前。二つの真逆な色を持つ。

 そしてそれは究極に反対で、(あい)()れない二色だった。

「黒と白を合わせても、灰色にしかならないのにね……」

「え?」

「あ、いいえ。さて……僕は自己紹介しましたよ。そろそろ貴女の名前も教えてください」

「う、うん……」

 寂しげに洩らした言葉を掻き消すように、「アナログさん」は明るい口調で催促をした。

 『名は体を表す』──ならば「ワタシ」の名は何を?