「そうですか?」

「せっかく誘いに乗ってあげたんだから、ちょっとは楽しい話でも聞かせてよ。そうでなくても司書さんなんだから、色々面白い物語とか知ってるんでしょ? あーでもその前に下の名前も教えて! ナグロ……何ていうの?」

 『理由』なんて……まぁイイか。

 良く分からないけれど思春期真っ盛り、好奇心旺盛ってことだろう!

 共に着き直した向かい合わせの席、ワタシは頬杖を突いて興味津々(しんしん)とばかりに瞳を寄せた。

 すると高い位置にあった彼の小顔がおもむろに降りてきて、ワタシの視線に合わせるように同じく頬杖を突いた。

「もちろん構いませんよ。ですが自分ばかりがお教えするのでは()まらない。貴女のフルネームも明かしてくださるのなら……どうでしょう?」

「か、まわないわよ。……特に隠す必要もないし」

 それでもワタシが(わず)かに言い(よど)んだのは、今までで最も彼の顔が近付いたからだろうか?

 それとも自分の名が気に入っていないことを、気付かれるのが嫌だったから?

 すぐ目先にある瞳は優しい筈なのに、真っ直ぐに見()えられて、まるで『蛇に睨まれた蛙』みたい──そんなことを思いながらふと息を呑む。

 気付けば頬から離れたワタシの手は、半分(から)になった紙パックを握り締めていた──。