次は救命隊への連絡だ。
「あ、蒼くん!だ、大丈」
「うるさい!」
顔面蒼白な姫巫女に私は思わず叫んでしまう。
「大丈夫な訳ないでしょ!?見てわからないの!?少しでも攻撃がズレてたら蒼は死んでいたんだよ!?」
「…っ」
感情的になる私を怯えたように姫巫女が見つめる。
そんな目で見つめられてもただただ怒りが込み上がってくるだけだ。
姫巫女が余計なことをしなければ蒼がこんな傷を負うことなんてなかった。
「紅、大丈夫。大丈夫だから」
姫巫女を睨みつける私の背中を蒼が宥めるようにゆっくりと撫でる。
その後、琥珀たちによって妖は倒され、救命隊も駆けつけ、その場は一応落ち着いた。
*****
あの騒動の後、海の特別外出はその場で中止となり、全校生徒、全教師は学校内へ予定よりも大分早く帰った。
海の特別外出は1度目にもあった。
だがしかし海の特別外出で襲撃に遭うことは1度目ではなかった。
もしあの時、自分の体が動くよりも早く能力を使う判断ができていたら。
蒼はあんな怪我を負わずに済んだ。
姫巫女の軽率さに怒鳴った私だが、冷静ではなかった私こそが元々悪いので怒鳴られるべきは私だ。
今日のことを考えながらもうすっかり夜になり薄暗くなった寮内の廊下を蒼のお見舞いに行く為に1人で歩く。
謝らなければならない。
全部私のせいだ。
蒼の部屋が見えてきた。
私は蒼の部屋の扉の前まで着くと控えめに扉をノックした。
「蒼、俺。紅だけど。今大丈夫?」
「紅?」
ガチャリと蒼の部屋の扉が蒼によって開かれる。
蒼は私を見て「いらっしゃい」と優しく微笑んだ。
*****
蒼に案内されて2人がけのソファに1人で座る。
するとそんな私に蒼はわざわざ冷たいお茶を出してくれた。
今の蒼は数時間前に肩を貫かれたとは思えないほど普通だ。
「それで?そんな死にそうな顔をして急にどうしたの?」
沈んでいる私を見て蒼がいつものようにふわりと笑う。
感情を読ませないはずの笑顔だが、その目には心配の色がある。
心配されるべきは蒼なのに。



