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「えー。来週に迫った海への特別外出ですが、基本的には自由行動です。タブレットの資料にもありますが、自由行動といってもこちらが指定している範囲内での自由行動になります。一般の方もいるので節度を持って行動するように」
黒板のスクリーンに映し出された〝海への特別外出〟の資料の横に私たちの担任が立ち、来週の〝海への特別外出〟の説明が始まる。
海への特別外出とは麟太朗様がずっと学校敷地内にいるしかない姫巫女の為に考えた息抜きの為の外出のことだ。
この時期に姫巫女が学校外に出ることは非常に危険だ。
だがしかし、麟太朗様は姫巫女の為に、全校生徒、教師総出で姫巫女の守りを固めての〝海への特別外出〟をお考えになった。
相変わらず麟太朗様は姫巫女に甘い。
1度目も姫巫女ファーストだったが、2度目もきちんと姫巫女ファーストだ。
外出先も姫巫女たっての希望らしい。
「…こんな時にわざわざ海に行かなくてもいいのにな」
私の後ろから武のため息混じりの文句が聞こえる。
…同感だよ、武。
武に答えるつもりはないが、心の中で武に同感していると後ろからまた声が聞こえて来た。
「こんな時だからこそ行くんだよ」
その声は武のものではなく、優しげな姫巫女のものだった。
私と武と姫巫女は同じ学年なのでクラスも同じだ。
普通の授業や活動なら姫巫女も受けられるからと一緒に受けている。
実戦等の専門的なものの時だけ、姫巫女は別だ。
この時間は来週の特別外出についての時間だったので姫巫女も一緒だった。
ちなみに今の護衛も今朝と同様武なので武は護衛としてここにいる感じだ。
自分のクラスにいるだけなので護衛と言われれば変な感じがするが。
「任務がたくさん入ってみんな疲れているよね?好きなものを食べたり、好きなことをしたり。みんないろいろな方法でストレスを解消していると思うけどきっと見えない疲れやストレスが溜まっているはず」
姫巫女が優しく穏やかに武に語りかける。
武にだけ語り始めのだが、姫巫女の話はいつのまにか担任の話でさえも止めさせ、全員が聞き入る状態になっていた。
「だからこそ、こういう普段では味わえない非日常を取り入れなければいけないんだよ。こういう特別がみんなのストレスだったり、疲れを消してくれるんだよ」
「…はぁ」
微笑む姫巫女にあろうことか武が力のない返事をする。
それが逆に負担だと言いたげな声音だが、姫巫女相手にそこまで露骨に嫌悪感を出していいのか、と少し笑えてしまう。
だが、本当に笑うとよくないことはわかっているので知らないふりだ。
前をただ見据えて私は話を聞くだけだ。
「さすが姫巫女様!なんて慈悲深い!」
「僕たちのことをそんなに考えてくれていたなんて!」
「う、嬉しくて涙が!」
武や私とは違ってわぁ!とクラスメイトたちから喜びの声が続々と上がる。
担任までも「素晴らしいお考えだ!」とパチパチと拍手をしていた。
そしてその拍手はやがて教室中に広まったので、私も一応クラスメイトと一緒に拍手をしておいた。
1度目も思ったが、姫巫女の人気が圧倒的すぎてもはや宗教の域なんだよね。
みんな盲目すぎて怖いし、その盲目さに私は潰された訳だ。
「何がそんなにいいんだよ」
と、本当に小さな声で武が文句を言っていたが、流石にその声は私には届かなかった。



