お気に入りだからこその蒼の苦労。
本当にご苦労様です。
「…紅、にんじん苦手だよね」
「急に何?」
突然の蒼の指摘に私は首を傾げる。
蒼の視線の先には私の朝食のお皿があった。
そこに盛られているのは肉じゃがだ。
「いつもにんじんを最後に食べるよね。カレーとかでも」
「…まぁ」
にっこりと笑う蒼によく見ているな、と少し驚く。
ご飯を食べる姿もまた周りから見られている対象なので美しく食べるように心がけているのだが、にんじんは苦手なのでどうしても後回しにしてしまう癖があった。
そうこう考えていると蒼が急に箸を私の肉じゃがに伸ばしてきた。
そしてそのままにんじんを取るとパクリと自分の口の中に入れてしまった。
「あ!」
突然の蒼の行動に驚いて声を出す。
「いいのに!別に食べなくても!」
「いいよ。食べさせてよ」
「でも…」
申し訳なくてアタフタしていると蒼はそんな私を見てクスクスと笑っていた。
「甘えてよ。僕は紅を本当はいっぱい甘えさせたいんだ」
「え…」
にっこりと微笑む蒼の表情はいつもの自分の感情を隠す笑顔ではない。
愛おしげに私を見つめ、ものすごく甘い砂糖のようにドロドロとした笑顔をしている。
ど、どうしてそんな視線を私に向けるんだ…?
「…何やっているんですか」
蒼の笑顔に戸惑っていると私の横からものすごく不機嫌な朱の声が聞こえてきた。
どうやら朱が温かいお茶を淹れて帰って来たみたいだ。
「おかえり、朱。お茶ありがとう」
「ただいま、兄さん」
朱はにっこりと私にだけ笑い、自分の席にさっさと着く。
それから「はい、兄さん。熱いから気をつけてね」と言ってお茶を私のお盆に置いてくれた。
過保護な子である。
私は朱の子どもなのかな?



