「紅、嘘をつくな。俺だけじゃない。ここにいる全員があの瞬間の証人だと言ったっていい。そうだろ?」
俺に話を振られてこの場にいた生徒たちがざわつき始める。
「…俺、見た。紅様が由衣様を押しているところを」
「手を伸ばしてあれは明らかにだったよな」
「守護するべき対象を攻撃するだなんてどうなっているんだ…」
ほら見たことか。
ここにいる全員が全員紅が由衣を〝押した〟と言っている。
「み、みんな、やめて!紅ちゃんは私を押していないよ!」
優しい由衣がこの場にいる全員から攻められる形になっている紅を庇うが、逆効果だ。
みんな由衣のことをよくわかっている。
誰かを守る為なら時には自分を犠牲にしてしまえる優しさのある子だと。
だから例え自分を突き飛ばした犯人でさえも守ろうとするのだ。
「由衣、大丈夫だ。あんなやつの為に自分を犠牲にするな」
「…で、でも!」
「優しいな、由衣」
辛そうな由衣の頭を優しく撫でる。
すると由衣は複雑そうな表情を浮かべながらもどこか恥ずかしげにこちらから目を逸らした。
「…さっきも言ったけど俺は本当に押していない。姫巫女様が急にこっちに近づいてきたと思ったら勢いよく倒れたんだよ」
「往生際が悪いな」
いつも変わらない感情を読ませないポーカーフェイスの紅に怒りがさらに込み上がる。
何故、紅はずっと嘘をつくのか。
「変な言い訳するなよ!お前、それでも次期当主なのかよ!責任ある行動取れよ!」
ついに我慢の限界を迎え、紅に怒鳴る。
するとその場にいる全ての生徒たちも紅を責め始めた。
「そうだ!そうだ!お前は次期当主失格だ!」
「姫巫女様に手を挙げるなんて最低だ!」
「謝罪しろ!」
生徒たちの声がどんどん大きくなっていく。
例え相手があの葉月家次期当主である紅でもお構いなくだ。
それだけ紅のしてしまったことの罪は大きいのだ。
「…申し訳ありませんでした。姫巫女様」
そしてやっと紅は自分の非を認め、由衣に頭を下げた。
「…紅ちゃん謝らないで。私にだってきっと非があるんだよ。悪いのは紅ちゃんだけじゃないんだよ。ね?」
頭を下げる紅に由衣は慌てて近づき、紅の周りであたふたしている。
何て優しくて何て愛らしい人なんだろう。



