話を逸らさなければ。


今の行動の説明を今ここでする訳にはいかない。
だから私は話を逸らそうと本当は嫌だが姫巫女に視線を向けた。



「俺よりも彼女の保護の方が先だ」



私にそう言われたことによって全員私から姫巫女に視線を移す。

そこには先ほどと変わらず、その場に座り込み、恐怖で震えている姫巫女の姿があった。


能力者という存在なら彼女が誰なのか直感でわかる。
1度目の私もそうだった。
彼女を見ただけで彼女が〝姫巫女〟だとすぐに感じられた。

つまり今ここにいる次期当主件守護者たちは彼女が姫巫女だということに気づいたはずだ。



「…紅、紋章の確認をお願いしてもいい?」



じっと姫巫女を見つめていると蒼が小声でそう言ってきた。

私たち能力者や妖は何となく姫巫女を感じられる。
言われなくても姫巫女という存在を認知できる。
だが、それをより一層確かなものにすることができるのが、姫巫女の紋章の存在だ。

16歳の誕生日を迎えた姫巫女の左胸の上にそれは現れ、それが姫巫女の力の覚醒の始まりでもある。

とにかく蒼は女の子である姫巫女に配慮して私に頼んだようだった。



「わかった」



本当は嫌だが私がやるしかない。
表には嫌な感情は一切出さず、真剣な表情で蒼に返事をすると私は姫巫女の元へ向かった。



「こんにちは」



とりあえず笑顔で姫巫女に挨拶をして姫巫女と同じようにその場で膝を曲げる。

私と視線が合った姫巫女の瞳にはまだ恐怖の色があった。
本当に怖い思いをしたのだろう。



「俺はアナタの味方だから安心して。怪我はない?ちょっと確認させてね」



本当は『胸の上の紋章を見せて』くらい言わないといけないのだろうが、姫巫女からすると今の私は男だ。

知らない男にそんなこと言われたら不信感しかないだろうし、拒否られる可能性だってある。
そもそも異性であっても不信感は抱くはずだ。

なので怪我を見るフリをして少しだけ左胸の上をはだけさせることにした。
問題のない範囲で紋章を確認する作戦だ。