あれ?
蒼の性格上、恐怖で怯えている誰かを今この状況で放置はしないはずだ。
それを蒼は今まさに放置している。
相手の妖はそれほど強くないし、あとは私たちに任せて姫巫女を落ち着かせることに専念すればいいはずなのに。
「…」
蒼の行動に思うことはあったが、先ほどの二の舞にはならないようにすぐにそのことを頭から消した。
今、妖は武の能力によって身動きが取れない。
姫巫女もこちらの安全圏にいる。
あとは…
「行くぞ、紅」
「うん」
琥珀に声をかけられて琥珀と同じように走り出す。
あとは私と琥珀で妖を殺すだけだ。
…だけどできれば殺したくない。
私は琥珀が攻撃するよりも早く大きな炎を妖の周りに発生させた。
その炎はあまりにも大きいので側から見ると炎で妖を丸焼きにしているように見えるはずだ。
だが、実際は妖はただ炎に包まれているだけだった。
「あっ、あづいっ!あづぃぃぃいいい!」
それでも熱いことに変わりはない為、炎の中から断末魔のような妖の声が聞こえる。
よし!これで琥珀はもう攻撃の必要なしと判断して妖に直接攻撃はしないはず。
足を止めて琥珀の方を見れば、琥珀もその場に足を止めてじっと妖を見つめていた。
あとは妖の説得!
ここには蒼、琥珀、武、姫巫女だけではなく、少し離れた場所からではあるが全生徒、職員がいる。
堂々と妖を説得する訳にはいかない。
だから私は炎の中に飛び込んだ。
「「「紅!?」」」
炎の外から困惑したような蒼たちの声が聞こえる。
自分の能力で自分自身が傷つくことはない。
この炎は私の能力だ。私が燃えてしまうことはない。
だが、炎の中に飛び込む姿はそれでも相当ショッキングなものだったのだろう。
自分の能力の炎では燃えないけど、対象に燃え移った炎はもう私の能力じゃないから燃えるしね。
炎の中で妖は燃やされていないので私が燃える要素は一切ない。
が、それを蒼たちはもちろん知らない。



