「…っ!」
姫巫女のことで頭がいっぱいになっていると誰かに肩を掴まれて思いっきり後ろに引かれた。
「…しっかりしろ」
私の肩を引いたのは琥珀だった。
私が先程までいた場所には黒い塊が落ちており、毒々しい煙が上がっている。
おそらくこの黒い塊が私に当たりそうだったところを琥珀が助けてくれたのだろう。
今は考え事をしている場合ではない。
例え弱い妖であっても油断は禁物だ。
「ありがとう、琥珀」
私は私を助けてくれた琥珀にお礼を言うと今度は真っ直ぐに妖を見た。
今にも姫巫女に飛び掛かろうと力んでいる大きな体に理性が切れたような表情。
青い瞳はギラギラしており、そこには殺気しか感じられない。
あの妖は相当殺気立っているように見える。
こちらを…特に姫巫女を殺す気しかないし、説得は難しいだろう。
…できれば殺したくない。
何とか戦意喪失させてさっさと逃走してもらうようにしないと。
もちろん最悪は殺すけど。
「いやぁぁあああ!」
妖の大きな手が私の予想通り姫巫女を殺そうと思い切り振り下ろされる。
姫巫女は自分の身を守るようにその場に座り込んだまま、頭を抱えた。
ぱんっ!
姫巫女を守るように現れた武の能力の水の壁が、妖の一振りを弾き返す。
そしてその水は無数の水滴に変わり、妖を捕らえた。
「ぐおおおおおおおおおお!!!」
武に捕らえられた妖は大きな叫び声をあげてその水を振り解こうと激しく暴れるが、水が解ける気配はない。
その隙に蒼の風が姫巫女をふわりと浮かばせ、ものすごいスピードで姫巫女を安全な場所である私たちの側まで運んだ。
「ゔ、ゔぅ…っ」
恐怖で震えている姫巫女が私たちの目の前にゆっくりと降ろされる。
「怪我はないね」
そんな姫巫女を蒼はちらりと見るとすぐに妖の方へ視線を向けた。
優しい言葉一つ投げかけずに。



