「…大厄災」
炎に囚われた俺の前に何とも弱そうな女が現れる。
何千年もかけて俺を封印し続ける忌々しい女。
ここから出られるものならばその喉を掻っ切り、今すぐに絶滅させてやりたい存在だ。
「アナタのような存在は許されない。みんなを苦しめた罪、また祠の中で償いなさい」
正義ぶった言葉を並べて俺を睨む姫巫女が俺の方へと手をかざす。
また俺はこの女によって再封印されるらしい。
「…お前たちだって俺たちを苦しめている。俺はただやり返しているだけだ。それを許さないだと?お前は何様なんだ」
「…だけど明確に悪いのはそっちでしょ?私たちは正義の名の下に動いている。イタズラにそちらを苦しめている訳ではないわ。だけどそっちはどう?命をおもちゃのように扱い、奪ってきたでしょう?」
「命はどれも平等だ。そしてやってきたことはお前たちも何も変わらない。奪うことは等しく重い」
「…だからこそ私は正義としてそれを終わらせるの」
綺麗事ばかり並べるこの女は一体なんなんだ。
数一つ負わず、炎の向こうで真剣な表情を浮かべるあの女のことが理解できない。
自分こそが正義だと主張する、何千年も見てきた俺が滅ぼさなければならない人間そのものがあの女だ。
「さあ、祠の中でじっくり反省してね。次はもうこんなことしないように」
ふわりと笑う姫巫女に腹が立って仕方がない。
それでも俺はもう何もできない。
姫巫女の再封印の力によって体からどんどん力が抜けていく。それと同時に輝き出す体を俺はもう何度見てきたことか。
再封印が進む中、俺は紅へと視線を向けた。
空を見つめる紅の瞳にはもう光はない。
あの瞳はいつも輝き、俺たちを優しく見つめていた。
氷のように冷たい表情を浮かべるあの顔はいつも本当は暖かく、俺たちに希望を与えた。
「…っ」
ああ、ああ。
今、やっとわかってしまった。
努力家でまっすぐで負けず嫌い。
あの優しい少女が俺は大切で大切で大切で、愛していたのだと。
この世界にはもう俺が愛してしまった少女はいない。
俺たちを何千年にも渡り、踏みにじり続け、俺から愛する者を奪った人間を俺は絶対に許さない。
「おい、そこの女」
俺は最後の力を振り絞って、姫巫女に不敵に笑う。
「覚えていろ。俺は俺の選択を反省したりはしない。必ず次こそはお前たちを蹂躙し、この世界を支配する。そして生まれ変わったお前は俺はまず一番に殺しに行く」
「…っ」
俺の言葉に衝撃を受けたように姫巫女が表情を歪ませる。
そこには恐怖の色があり、俺は愉快になった。
せいぜいずっと先の未来、来世まで俺に怯えていろ。
そこまで考えたところで俺は再び、あの学校内にある祠へと再び封印された。



