2度目の人生で世界を救おうとする話。後編





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「人間」



ザァザァと強い雨が目の前で項垂れる少女を責めるように降り続ける。
俺はそんな少女が忌々しい葉月の家を後にした後、1人森を彷徨っていたところに声をかけた。

俺に声をかけられたことによって少女は足を止め、こちらを見つめる。
まっすぐとこちらを見据える黒色の瞳には、かつて疲弊しながらも未来を思い、希望に輝いていたあの力強さはどこにもなかった。

まるで今の空模様のようにどんよりと何も映さない瞳。
全てに絶望した者の瞳だ。

俺はこの少女のことを見て見ぬふりをしていたが、それでもどうしても気になって、この少女のことをずっと観察していた。
だから俺はコイツが置かれている状況を知っていた。

人類最強と言えるほどの強さを持ちながらコイツは人間に要らないと裏切られ、捨てられたのだ。



「お前、名前は?」



ずっとどこかで気になっていたコイツの名前を聞く。
本当は名前などとうの昔に知っていたが、それでも本人から名前を聞きたかった。



「…こう」



弱々しい声。
初めて俺に向けられた声。
それがこんなにも弱々しい声だとは。



「…紅、どこへにも行く場所がないのなら俺のものになれ」



人間は弱いが、コイツは違う。
コイツの強さを俺はずっと祠から見てきた。
コイツならきっと人間を破滅へと導く、最高の道具になる。

冷たくただ淡々と紅を見下ろす。
紅はそんな俺の視線を受けても怯むことはなかった。
強い人間である証拠だ。



「わかった」



全てを諦めたかのように紅はただそう言って頷いた。