2度目の人生で世界を救おうとする話。後編




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濃紺の星空に私と龍の体がふわりと浮いている。
私は今、龍に抱き抱えられて龍の風の能力によって空を移動していた。



「…これからどこに行くの」



私を抱き抱えたまま移動を続ける龍に私は質問する。
灰色の長髪をなびかせて空を飛ぶ龍の姿はまるで龍の名前の通り、本物の龍のようだ。



(ひじり)家だ」



龍はただまっすぐと前を見据えて、そう私の質問に答えた。
その金色の瞳はどうやら目的地である〝聖家〟の方向を見ているらしい。

聖家とは大厄災、龍の庇護下にある、とある山奥にあるお屋敷だ。龍を始め、たくさんの妖がその存在を隠している為、能力者たちはその存在さえ知らない。
そこでは弱い妖や身寄りのない妖などが身を寄せ合って生きている。
去年の夏祭りの任務で出会った弱い妖にもその場所を私は教えていた。

今から私はそこへ行くのだ。



「…懐かしいね。みんな元気にしているかな」

「まぁ変わらずだな」



1度目のことを思い出して懐かしむ私に龍が淡々と答える。
聖家のみんなとはもっと先、妖と人間が共に生きられる世界を作ることができてから会えると思っていたので、とても早い再会に私は嬉しくなる。

その再会の理由があまりよろしくないが、そこは仕方ないだろう。
1度目の記憶を持つのは私だけなので、みんなは私のことを知らないが、私はみんなを知っている。

状況は最悪だが、私は聖家に着くのを楽しみに思いながら龍の腕の中で笑った。



「…ところで紅」

「うん?」

「神の話だが、アイツが話していたことは全て本当のことなのか?」



ふと、龍がタイミングを見計らった様子で私に神様について聞く。
まあ、そう思いますよね。急に信じろと言う方がおかしいし。
よく龍は突然頭に聞こえてきた謎の人物の声を神様だと認識して、さらに話まで信じて、私を助けに来てくれたよね。



「…どこまで聞いたのかはわからないけど神様が言っていることは信じていいよ」

「そうか」

『そうです!』

「「っ!?」」



龍と私の会話に突然神様が元気よく割って入る。



『改めて私は神です。本日を持って龍、アナタにも私の声が聞こえるように何とか設定を変えました。もう私は神の世界のタブーを犯しまくっていてあとがありませんよ』



ふざけた声で悲しそうにしている神様に私は思う。
きっと神様は今、嘘泣きでもしながら私たちに話しかけているのだろうと。



『紅は本当に勘が鋭いですねぇ』

「これ勘関係ある?普通に想像できる範囲だと思うけど」

「おい2人で話を進めるな。訳がわからない」



神様といつもの調子で話をしていると、私の頭の上から龍の困惑した声が聞こえてきた。