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『ほのぼのしている場合ではありませんよ』
朱との食事を終え、1人でぼーっとしていると私の頭の中に神様の声が聞こえてきた。
ほのぼのしているつもりはないんだけどな。
『ほのぼのしていました。何ですか、先ほどの食事は。アナタは朱に甘すぎますよ。仮にも自分を監禁している相手だというのに』
『あー。まあ、それは認めるけど』
明らかに呆れている様子の神様に私は苦笑いを浮かべる。
仕方ないではないか、朱に弱いのは元からだ。
『…それで質問なんだけど私が今監禁されているのってシナリオにはあるの』
『ないですよ、そんなもの。油断していました』
『…』
『この2度目の世界のシナリオは、例えば今の紅なら1度目の記憶がある前提でシナリオに記されている、と前に説明しましたよね』
『うん』
『このシナリオが把握している2度目の記憶を持つ人物はアナタと大厄災龍の2人だけです。2人の行動は常に1度目を知っているからこそできる行動として、1度目と例え違う動きをしたとしても、正しくシナリオに記されていました。一方、朱の行動は1度目を知らない前提でシナリオに記されています。もうその時点で全てが違ったんですよ』
『…なるほど』
シナリオには朱は1度目の記憶がないまま2度目を生きていると思われていた。
だからこそ朱の行動は正しくシナリオに記されなかったのか。
『そうです。さらにこのシナリオは元々最初から歪んでいると思っていました。なので実はシナリオと違う動きをする人物は結構いたんですよ。例えば蒼が姫巫女を探さない、とか。だから小さな歪みはそこまで気にしていなかったのです。その結果がこれですよ。朱が2度目だとわかっていればもっと対策ができたというのに』
はぁ、とため息をついている神様の声が聞こえる。
いろいろと起こっているイレギュラーに頭を抱えているようだ。



