いろいろな食事が置かれたカートを押して朱が鉄格子の中に入ってくる。
「今日は姉さんの好きなものを用意させたよ。コーンスープにハンバーグにサラダ。白米もパンも好きな方を選べるし、デザートにはガトーショコラもあるよ。フルーツも用意させているからね」
本当に楽しそうにしている朱だが、その表情はどこか仄暗い。
「…朱、どうしてこんなことするの?こんなことしなくても私は大丈夫だよ?」
そんな朱を心配に思いながらも朱に声をかけると朱はその愛らしい笑みをさらに深めた。
「大丈夫?そんな訳ないでしょ?姉さんはね、大事に大事にしないといけない存在なんだよ?外に出たらダメなんだ。ここにいればずっと安全だからね」
「…朱」
ふふ、と楽しそうに笑って朱が私の頬に触れる。
いつからこんな危うげな笑い方をするようになったのだろう。
「さぁ。姉さんご飯にしよう。どれも美味しそうでしょ?」
「そうだね」
こんな状況だが、朱に笑顔でそう言われて私はとりあえずご飯を食べようとした。
だが、私はその手をすぐに止めた。
箸もスプーンもフォークも。
ご飯を食べる為に必要なものが一切ないからだ。
「箸とか忘れてない?これじゃあ食べられないよ?」
朱でもこんなうっかりをしてしまうのか、とおかしくて朱に笑えば、朱が愛おしそうに私を見る。
「忘れてないよ。ほら」
そして朱はカートのどこからか箸を出して、私に見せた。
隠すように置かれていたそれで朱がハンバーグを一口サイズに切って私の口元へ運ぶ。
「姉さん、あーん」
「え」
食べさせようとしている?
「いや、いやいや。朱、食べられるよ、自分で。大丈夫だから」
おかしなものでも見る目で朱を見ると朱はキョトンとした表情で私を見た。
おかしいのはまるで私だと言いたげな表情だ。



