一歩も動かずに勝てちゃったか。
少し拍子抜けな展開に朱を労うように見ているとすぐに状況が変わった。
ボウ!と強い炎が私の放った火たちを全て相殺していたのだ。
「え」
今の炎は誰のもの?
炎が消えて、そこからゆらりと朱が現れる。
朱はその場でおかしそうににっこりと笑っていた。
まさか今の朱がやったの?
「姉さん。姉さんも強いけど僕の方がずっと強いんだよ」
その場で朱が右手を私に向ける。
するとその右手から強力な炎の渦が現れた。
私を力で押すつもりなのか。
そんなことできるはずもないのに。
挑まれたからには受けずにはいられない。
私はそれを避けることなく、同じく強力な炎で相殺、そのまま、チョーカーを壊してやろうとした。
したのだが。
「…っ!」
強い!押し返せない!
朱の炎は私が想像していたものよりも遥かに強かったのだ。
何故?私が知っている朱にはこんな力なかったはずなのに。
押し返せないのなら避けるしかない。
だが、最初から相殺できるとたかをくくっていた為、もう朱の炎と私の距離はない。
一か八か左か右に飛んで避ける…これくらいしか手はもうなさそうだ。
そう判断して私は思いっきり炎のない右へと飛んだ。
「来ると思った」
そんな私をにっこりと笑って朱が受け止める。
「え」
ここまで読まれていたの。
驚いている私の首に小さな朱の炎がまとわりつく。
そしてその炎は私のチョーカーを燃やした。
嘘でしょ?負けたの?私が?
「…これでもう次期当主は僕だね、姉さん」
満足げな朱の声が聞こえたと同時に首の後ろに何か強い衝撃が加わる。
「…っ」
突然の衝撃に私は反撃することもできず、そのまま意識を失った。
朱が自身の手刀で今しがた意識を落とした紅を大事そうに横抱きにする。
「…父様、今の見ていましたよね。約束を忘れたとは言わせませんよ?」
「ああ。次期当主はお前だ、朱」
「ふふ、ありがとうございます」
眉間にしわを寄せる父に朱は満足げに笑うと軽やかな足取りで葉月家内に入って行った。
愛おしい姉、いや、紅を世界一安全な場所へ移す為に。



