「父様の守り方は甘すぎます。姉さんは全てから守られるべき存在です。外は敵だらけです。この葉月家から姉さんを出すべきではありません」
僕はそこまで言って一旦黙った。
そしてほんの数秒黙った後、父をまっすぐ見据えて僕は口を開いた。
「僕が次期当主になった暁には姉さんを必ず守る為に葉月の家に姉さんを監禁します。姉さんに抵抗されても次期当主の権限でそれを抑えます」
「…朱」
父が僕を見て表情を歪める。
その表情も僕はもう何十回と見てきた。
誰がどう言おうとどう思おうと僕はどうでもいい。
最後に姉さんが笑っているのなら。
生きているのなら。
その方法が例え酷いものでも構わないのだ。
何もしなかったから。
姉さんを信じたからこそ姉さんは死んだ。
だから今度こそ僕は姉さんが死なない為に最善を尽くさなければならないのだ。
僕は姉さんが死んだ記憶を持っている。
そしてそのことに絶望して世界を焼き尽くした記憶も。
*****
姫巫女に導かれ、大厄災と姉さんを見つけた僕たちは2人と対峙し、そして僕たちはついに大厄災の再封印に成功した。
「…よかった」
大厄災の再封印に成功した姫巫女がその場に膝をついて震えている。
もう体力の限界なのだろう。
僕は姉さんをずっと信じていた。
姉さんの行動には何か理由があるのだと思い、ただ姉さんの選ぶ道を見守った。
姫巫女を攻撃したとして能力者界を追放された姉さん。
僕は葉月ではなくなった姉さんを見てむしろ好都合だと思ってしまった。
姉さんの周りにはいつも幼馴染の次期当主たちがいたけれど姫巫女との関係が拗れていく内に彼らは姫巫女の味方となり、姉さんから離れた。
1人になって葉月じゃなくなった姉さん。
そんな姉さんに最後の最後まで残ったのは僕だ。
姉さんにはもう僕だけ。それがどれほど嬉しかったことか。
大厄災を再封印しなければ、妖の世界が訪れてしまう。
だからこそ僕は今すぐにでも何も持てなくなった姉さんを囲ってしまいたかったが、それを我慢して自分の役割を全うした。



