「そんな話どこで聞いた」
「どこでもいいじゃないですか。それより私の話に答えてください」
「よくない!この葉月家でそんなことを口走ったやつがいるのか!」
父が初めてはっきりと私に感情を見せる。
怒りに身を任せて叫ぶ姿に私は呆れた。
使用人の誰かが流した噂を私が聞いたとでも思っているのだろうが、〝そんなこと〟を口走っていたのは父と母である。
自分に怒っているようなものだ。
「いません。冬の帰省の時にたまたま父様と母様の話を私が直接聞きました」
「…っ」
私の淡々とした答えに父がバツの悪そうな顔をする。
そしてしばらく下を向いたまま黙った。
「すまなかった。だが、あれは本心ではない。私は本気で紅を我が子のように思い、愛している」
「そうですか。じゃあもう解放してくださいよ。愛していると言うのなら私を普通の女の子として生きさせてください」
弱々しい父の声に私はそう言い放つ。
この際私を愛していようがいまいがもうどうでもいい。
ただ次期当主から降ろしてほしいだけなのだ。
そうすれば全てうまくいくはずなのだ。
私でも朱でもどちらでもいいだろう。
父の次の言葉を祈りながら待っていると父はゆっくりと顔を上げ、葉月家当主として私をまっすぐ見た。
「それはできない。紅、お前こそが次期当主に相応しいからだ」
「…」
何故、父が頑なに私を次期当主のままにしておきたきのかわからない。
訳がわからなくなったが、今日はもう父の説得は無理だと判断して、私は父の説得を今日は諦めることにした。



