困ったな…。
やはり淡々と事実を確認するだけではこの父を説得するのは不可能らしい。
朱の為にも私を次期当主にしておきたいのだろう。
それならば次の手だ。
「…父様は私のことを愛していますか」
「…何を言い出す」
父が私のことを愛していないことは知っている。
だからこそ私を朱の身代わりにしたことも十分理解している。
険しい顔でこちらを見てる父に私は今日初めて父の前で悲しげな表情を作った。
「愛していないことはわかっております。ですが、そんな愛していない、大切ではない赤の他人を父様が…いや、葉月家が脈々と守ってきた大切な葉月家を束ねる当主にするのは間違っています」
じっと父を見つめれば、あの父が一瞬だけ苦しそうな表情を浮かべた。
しかしそれはほんの一瞬で見間違えではないかと思えてしまうほどだった。
「愛していない?私はお前を愛している。そうでなければお前をこうやって育てない。次期当主に指名しない」
冷たく、圧を感じる父の言葉がこの静かな書斎に響く。
決して大きな声ではないがよく通る声が私をまた威圧している。
「そうですか。でも私は知っているんですよ。私を愛していないからこそ朱を守る為に私を犠牲にしたと。朱が幸せに生きていく為に私を次期当主にしたんでしょう?」
冷静でいようと思っていた。
感情的になるべきではない、と。
ただ父を説得できればいい、と。
だが、しかし、父が私がずっと欲しかった父からの愛をいとも簡単に言うものだから。
しかも嘘の愛を自分の目的のためだけに口にしたものだから。
私の中の何がプツンと切れた気がした。
我慢ができなかった。朱のことまで出すつもりはなかったのに。



