「それで大事な話とはなんだ」
今まで見ていた書類から私へ視線を向けて相変わらず冷たく父が私を見つめる。
当主たるもの他者に感情を悟られてはならない。
そう昔から教わってきたからこそわかるが、父は当主としてああして他人に考えや感情を読まれないようにしている。
だから私もそうしてきたのだ。ポーカーフェイスはお手のものだ。
「次期当主についてと守護者についてお話に参りました」
「ほう」
私も父に習って冷たい感情を読ませない表情を作り、真剣な声で話を始める。
父はそんな私をただまっすぐ見つめ、次の言葉を待った。
「単刀直入に言います。俺…いや、私を次期当主から外してください。それに伴い守護者の任も降りたいのです」
「…何?」
私の言葉を聞いて父が片眉をあげる。
私を見つめる瞳は相変わらず冷たく、どこか威圧感を感じる。
愛されていないことがよくわかる。朱とは違って。
「自分が何を言っているのかわかっているのか、紅」
「はい」
「…そうか」
私のまっすぐな返事を聞いて父が思案する様子を見せる。
そう簡単には私の思い通りにはならないとはわかっている。だからこそ私は父を何とか説得しなければならないのだ。
「私が父様の本当の子どもではないことは知っています。私の母がどこかから作ってきた子なのでしょう?」
「…っ」
父が初めて自身の顔に表情を浮かべる。
その表情は驚きだ。
まさか私が父の本当の子ではないことを知っているとは思いもしなかったのだろう。
「私には葉月の血は流れていません。そんな私が次期当主などなれるわけがないんです。次期当主に相応しいのは朱…」
「やめろ」
つらつらと言葉を連ねる私を父が静かな声で静止する。
腹の底から出たような低い声は明らかに怒りの色を帯びていた。
何故父は怒っているのか。
怒る要素などないと思うのだが。
「やめません。言わせてください。朱こそ葉月の次期当主に相応しいです」
父の怒りに困惑しながらも言いたかったことを言い切る。
父はそんな私を怒りの表情を浮かべて見つめていた。
「葉月の次期当主は紅だ。これは私がずっと昔に決めたことだ。誰にも変えられないことだ」
「そうですか。ですが…」
「何度も言う。次期当主はお前だ、紅」
「しかし父様。私には…」
「次期当主はお前だ」
父を説得しようと口を開こうものなら〝お前が次期当主だ〟と言われてしまう。
多分また説得しようとしても同じことを繰り返すだけだろう。



