「世界を…いや、俺の由衣を傷つけたこと許さないから」
「…はっ」
僕の言葉に紅が呆れたように笑う。
僕はそんな紅なんて気にもせず、右手で短剣を思いっきり振りかざした。
一直線に紅の心臓を狙う。
ここへ短剣を刺せば紅は死ぬ。
それで本当にいいのか。
そう一瞬だけ思ったが、僕のまっすぐ降ろされた短剣は迷うことなく、紅の心臓を貫いた。
「…ぐぅ、がはっ!」
僕に心臓を貫かれて、紅が苦しそうに咳込む。
短剣を刺したままの心臓からは血が止まらず、口からもダラダラと血が流れ続けている。
僕の右手には紅の心臓を貫いた生々しい感触が残っていた。
すごく気分が悪い。
由衣の仇を取ったはずなのに気分が晴れない。
むしろこんな選択は本当に正しかったのかと自問自答してしまう。
僕越しに空を見つめる紅の瞳。
何を思っているのか、どうして妖側についたのか、もうきっと何も僕に答えることはない。
その瞳から徐々に生命力が消えていく。
それは炎が少しずつ弱くなり、消えゆく様子とよく似ていた。
ああ、僕がこの手で紅を殺してしまったのか。
紅は殺されて当然のことをした。
それなのに。
未だに紅から短剣を抜くことができない。
その手を離すこともできない。
「…こ、う」
僕は今どんな感情なのだろうか。
どんな表情を浮かべているのだろうか。
自分のことなのに何もわからない。
僕に名前を呼ばれて紅はやっと空ではなく、僕をその瞳捉えた。
そして紅は何故か僕に小さく笑った。
紅の瞳から光が消える。
紅が死んでしまった。
僕が殺した。
僕の頬を一筋の涙が滑り落ちる。
それからそれはどんどん溢れて自分自身でさえも止められないものへと変わった。
ああ、きっと僕は今後悔している。
何故、紅を殺してしまったのか、と。



