2度目の人生で世界を救おうとする話。後編





「…」



紅は大厄災の横で何も言わずにただただ無表情にこちらを見ていた。
そこにいるのはもう僕たちが知っている紅ではない。

性別を偽る為に肩までしか伸ばせていなかった黒髪が今ではその肩をゆうに超えている。
元々癖のあったその髪は伸びたことによってふわふわのカールがかかっていた。

もう男には見えない。
そこにいたのは幼馴染の男の紅ではなく、よく知らない女の紅だった。

…どんな紅でも関係ない。
俺たちはここにいる妖を全員倒して、大厄災を何としても再封印する。



「紅の相手なら俺だな」



紅の相手として名乗り出たのは武だ。
火の能力者と相性がいいのは水の能力者なので妥当だろう。



「なら僕も紅の相手をするよ」



武に続いて僕も紅の相手に名乗り出た。
僕たちは大厄災とも戦わなければない。
僕はあまり攻撃分野は得意ではない。朱や琥珀に全力で大厄災を叩いてもらい、僕と武で紅を相手した方がいいだろう。

朱と琥珀は武と僕を見て頷いた。
これで役割は決まった。



「蒼くん!」



紅の元へ向かおうとする僕に由衣がひどく心配そうな顔で声をかける。
そして祈るように僕の右手を自身の両手で包み込んだ。



「どうか無事で」



由衣の長いまつ毛が自身の顔に影を落とす。
愛おしいと思う存在。守るべき存在。
それが由衣だ。



「みんなも。絶対死なないでね」



由衣は不安げに今度は武、朱、琥珀を見つめた。