円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語

「ねえ、アーシャさんは、スタン様やレオン様とご親戚なんでしょう?」
正面に座る女子が話しかけてきた。

「え!ああ、うん。でも曾祖父同士が兄弟っていう遠縁でね、あまりお話したこともないのよ、ははっ」
 親しい間柄と言おうものなら、私物をもらってきて欲しいとかせがまれそうだ。

 スタンお兄様は、レオンお兄様以上に粗野でお馬鹿なのにどこがいいのかしら。

 長くつなげたテーブルの一番向こうで男子生徒たちと一緒に食べているレオンは、あれこれ質問されているのか笑顔で談笑している。
 面倒見の良さは、さすが長男だと思う。 

「そういえば先日の学年末パーティーで、レオン様がレイナード様と何か揉めてらしたそうよ」
「妹がないがしろにされているんですもの、正義感の強いレオン様が黙ってらっしゃるはずはないわよね」

 あらら、あの場面を誰かに見られていて、しかももう噂になっているのね。
 噂ってこうやって広まっていくのね?

 まさか、その揉め事の当事者がもう一人ここにいますとも言えず、黙って彼女たちのヒソヒソ話に耳を傾けながらスープを飲んだ。