円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語

 ちなみにこのドレスの生地は古布で、どこかの貴族の寝室の天蓋だったらしい。
 学院は鑑定結果に基づいた職業訓練の場も兼ねているため、本人が希望すれば専門的な技術を学べる機会も道具も全て用意してもらえる。

 星3の服飾師であるマーガレットは、わたしのために張り切って「悪役令嬢っぽい悪趣味なドレス」を作ってくれているけれど、材料費がかさむのは忍びないので、古着や古布をそれっぽくリメイクしてくれればいいとお願いしてある。

 マーガレットとともにこの生地を初めて見た時は、これがベッドの天蓋になっている情景を思い浮かべて、なんと悪趣味な寝室なのかしら…と思ったわたしたちだったけれど、マーガレットは見事にそれをたったの数日で期待通りの「悪趣味なドレス」に変身させてくれた。

 目の前のレイナード様、カイン、ナディアがポカンとしている様子に満足してドヤ顔をしながら、さらなる一手を放った。

「レイナード様、どうぞ」

 わたしがグーのまま差し出した手の中身を、何の疑いもなく受け取ろうと上げたレイナード様の手のひらに、先ほど捕獲したばかりのヤツを乗せた。

 手元に視線を落としたレイナード様は「ひっ!」と息をのんで二歩下がったものの、手に乗せたそれを振り払ったり、驚いて尻もちをつかなかったのはさすがだ。

 昔はカエルが大嫌いで目の前にぶら下げて見せただけで泣きべそかきながら尻もちついていたのに、立派になったわね、レイ。