円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語


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 ルシードがキースをどう言い含めてくれたのかは知らないけれど、ありがたいことにルシードとの再会以降、キースはとてもおとなしく治療に専念してくれた。

 今回キースたちを襲うことを指示したと思われるフック伯爵に私的な報復をしないことも約束してくれた。

 レイナード様によると、救済制度を悪用して国庫に納めるべき穀物を着服し、私腹を肥やす貴族が少なからずいるため、この制度の見直しと、過去に救済制度が適用された案件に関する再調査をすすめようとしていたらしい。

「それを聞きつけたフック伯爵が、先回りして証人を殺そうとしたっていうことなんだと思う。仕返ししたい気持ちはよくわかるけど、この件に関してはこちらで預からせていただきたい」

 レイナード様のその申し出も快諾したキースだったけれど、フェイン侯爵領の暴動事件の証人になってほしいという件に関しては、時間が欲しいと言った。

「俺はまだ子供だったから詳しいことはわからないが、教会の司祭様は間違いなく領民の味方だった。あの夜、赤ん坊のルシードがむずがるもんだから、立てこもっていた教会の裏口から抜け出して外にいた。そこで見たんだ、あいつらが教会に火を放つところを…」

 あの事件のことを思い出しながら苦し気に語るキースは、自分からこのことをルシードに説明したいと言った。

「ほかにもあいつに謝らないといけないことがたくさんあるんだ。俺たちの気持ちの整理がつくまで待ってもらいたい」

 レイナード様は大きく頷いて、それを了承したのだった。


 毒に侵されたキースの左腕が元通りになった頃、ジェイも家族との再会を果たした。
 妻のメアリーには再婚の話もあったようだけれど、夫が迎えに来てくれると信じて待ち続けていたらしい。

 消息の確認を頼まれた人たちのその後を調べた報告書も渡した。

 そして、わたしを助けてくれたお礼がしたいという両親に対し、キースは、アジトの仲間たちがカタギに戻る手助けをしてほしいと頼んだのだった。