円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語

 逃げ出したステーシアを探しながらレイナードを小声でたしなめた。
「俺たちがいる前で打ち明けてもよかったんじゃないのか?すでに相当嫌われてるぞ?」
 強い絆が聞いて呆れる。

 レイナードはため息をついた。
「おまえなんかに聞かれたくないし見られたくない。泣きそうなシアを慰めたかったのに……こんなことになるとは思わなかった」

 いや、俺は「こんなこと」になると予想してたけどな。

「おまえが不器用なせいだ。だから断れって言ったのに」
 そもそも、ナディアに同情したのが間違っていたんだ。
 一旦了承したあとでも、別の方法を考えようとか他に手立てはあったはずなのに、「一度了承したからには」とかなんとか言って、不器用なくせに頑固だから質が悪い。 

「父に相談してみようと思う」

 いや、やめろ!
 王妃様に自分たちで解決してみせろと言われているんだ。
 そんなことされて国際問題にでも発展したら、俺の将来がなくなる!

 別の理由で引き留めよう。
「おまえの評判が悪くなるようなことを陛下がお許しになるはずがないだろうが」

「仕方ないじゃないか、このままではシアが不憫だ」
 
 まあ、それは間違いないけどな。
 近いうちにリリーと密会しないといけないな。

 俺たちは、この会話の一部をステーシアが聞いていたことも、それで尚更勘違いさせていたとも気づかないまま図書室を後にしたのだった。