円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語

 レイナードも野暮天なりに、ステーシアが辛そうにしていることには気づいていた。
 噂が独り歩きし始めたことだし、全貌は明かさないまでもステーシアに信じて待っていて欲しいぐらいは伝えておいたほうがいいということになったのだが、すでに手遅れだった。

 ステーシアはすでに、レイナードと二人っきりになる状況を徹底的に避けて逃げ回るようになり、目すら合わせようとしなくなっていたのだから。

 この日の勉強会で、レイナードはあることを計画していた。
 ステーシアが逃げられない状況を作ればいい。
 努力家の彼女がしっかり予習してこないように、ステーシアにだけテーマを教えず戸惑わせたところで「わからないなら、このあと一緒に勉強し直そうか」と切り出すはずだったのだ。

 海賊と山賊対策というテーマは、ステーシアには難しかったらしい。
 その直前に、二人のイチャコラとも見えるやり取りを見てしまったこともあって、ステーシアは終始泣きそうな顔をしていて見ていられなかった。
 しかしレイナードとしては、これでやっとステーシアと二人で話せると前のめりになったのかもしれない。
 彼女が深く傷ついている様子などお構いなしに「シアはどう思う?」と話を振ったのだ。

 よくわかりません、とひと言だけ言ってくれたらよかったのだが、ステーシアは勉強不足で申し訳ないと深々と頭を下げると猛ダッシュで教室を出て行ってしまった。
 レイナードが慌てて「待って!」と呼び止めようとしたが、逃げられてしまった。

 ああ、やっぱりな。
 こうなりそうな予感がして、今日はやめておけとずっとレイナードに視線を送って伝えようとしていたのだが、この野暮天は全くそれに気づいていなかったのだ。