それから、電車に乗り込んで他愛ない話をした。


 たとえば猫派な有明くんの話。


 猫の気まぐれなところが好きみたいで、突き放された直後に甘えられるのが夢だと語ってくれた。


 たとえば有明くんが一悟くんと仲良くなったきっかけの話。


 二人は同じ中学だったけど、仲良くなったのは高校かららしい。


 きっかけは、一年生のときの出席番号が近かったからみたい。


 たとえば一悟くんの家族の話。


 一悟くんには年の離れた社会人のお兄さんがいて、今はもう家を出ているそうだ。


 両親は共働きで、一悟くんが晩御飯を担当する日もあるとか。



 ――つまり現在、一悟くんの家にいるのは一悟くんだけの可能性が高い。


 連絡なし、サプライズで家に行こうとしてるわたしにとって、それは都合の良い話でしかなかった。


「一悟くん、喜んでくれるかなぁ」

「最悪、ひっくり返って頭をぶつけるかもしれない」

「そ、そうなる前に受け止めるよ……!」


 コンビニの袋を手にぶら下げながら一悟くんの家へ歩みを進める。


 一応ゼリーやスポーツドリンクを買ってみたけど、受け取ってもらえるかな。


「あ、あそこが一悟の…………」


 遠くを指を差した有明くんの声が消えていく。


 どうしたんだろう。


 青ざめた顔色をした有明くんから、目線の先をたどる。


 あれって……。