【一悟side】


 その日は、朝から体調が悪かった。


 でも学校に行けないほどじゃなかったから、極力顔に出さないように一日を乗り切ろうと思って……たんだけど。


 ……やばいかも。


 四時間目が終わる間際、限界が来てしまった。


 ぐるぐると体中を駆け巡る不快感。めまいから必死に耐える。


 心配をかけたくないから、周りに悟られてはいけない。昼休みまで我慢しようと決意した。


 そしてやって来た昼休み。俺は笑顔で隠しながら、トイレに行くふりをして保健室に急いだ。


 三階の一年の教室から一階の保健室に行くのはかなり体力を消耗する。


 倒れないように壁を伝って、一段一段階段を降りていく。


 やっと最後の一段だ――そんな油断が生まれたとき、俺の体はふらついた。


 あ……ここまで頑張ったのに――


「危ないよっ!」


 グイッと腕を引き寄せられて、地面に体を打ち付けずに済んだ。


 俺の意識は朦朧(もうろう)としていて、お礼を言う気力すら湧かない。


「わ~大丈夫? わたし保健委員だから、肩貸すね?」


 柔らかい女子の声。


 優しく包み込まれるような心地よさに、少し体が軽くなった。


 彼女に支えられながらゆっくりと足を進めていく。


 自分より小さい女子に肩を貸してもらうなんて、情けない。