「今日はありがと~一悟くん。すごく楽しかったねぇ~」


 並んで電車の席に座る。混む前に座れたけど、次の瞬間には満員になっていた。


 帰宅ラッシュの時間帯だ。これは降りるのに苦労しそう。


「俺も……幸せだった……」


 まだ繋いだままの手を強く握りながら、一悟くんは言葉通り幸せそうに微笑む。


 一悟くんが嬉しそうだとわたしも嬉しい。


 今日は素敵な思い出になったなぁ。


「俺、これからもたくさん好きって伝えられるように頑張るね……」


 そっと頭を傾けて、耳元にささやいてきた。


 顔もすぐ真横にある。緩くはにかむ一悟くんを視界の端で捉えた。


 あ――


 急に胸がぎゅうぅっと締め付けられて、体中の熱が上がっていく。


 一悟くんが教えてくれた、ドキドキっていう感覚。


 もっともっと、大切にしていきたいなぁ~……。


 わたしも一悟くんの方に頭を傾けると、コツンとぶつかった。


 今日だけで十分伝えてもらったのに、これからまだもらえるんだ。


 嬉しい……のと同時に、少し疑問も浮かんでくる。



 ――わたしって、そこまで一悟くんに好かれるくらいの人間なのかな?



 一悟くんのことを素敵だなって思えば思うほど、そんな考えは大きくなっていく。


 わたしより一悟くんのことを好きな子はたくさんいるだろうし……。


 ずっと一緒にいたいって……思うのに。


 まだ堂々と一悟くんのことが好きだよって言えないのが悔しかった。