「伊吹くんのお母さん。入院手続きがありますので、移動をお願いできますか?」

「はい」



春佳くんのお母さんが涙を拭きながら立ち上がる。

先生が病室のドアを開ける。

お母さんは私とすれ違うときに呟いた。



「春佳のこと、よろしくね」



って……。


私は小さく頷いた。

病室のドアが閉まった音が後ろから聞こえた。

先生とお母さんの足音が聞こえなくなる。


病室には私と春佳くんの2人きり。

私はゆっくりと春佳くんに近づいた。


春佳くんに近づけば、ピッ、ピッ、と機械的な音がする。

本当に春佳くんは病気を抱えているんだ、と思い知らされる。

私はそっと春佳くんの手を握り、しゃがんだ。



「春佳くん……」


だけど、その日、春佳くんが目を覚ますことはなかった。